AbemaTVの経営戦略 -スマホコンテンツの戦略-
商品・サービスの寿命
どのような商品・サービスにも寿命があります。寿命の長さはそれぞれ違いますが、永遠に続く商品・サービスがあるわけではありません。
例えば、ワープロ専用機はパソコンにとって変わられ、パソコンはタブレットへと変わりつつあります。フィルム写真はデジタルカメラにとって変わられ、デジタルカメラはスマホに変わりつつあります。
商品・サービスの寿命は、製品ライフサイクルといわれ、一般的には4つの段階で考えられます。導入期、成長期、成熟期、衰退期、の4つです。
企業が市場で生き残るためには
昔読んだ経営戦略の教科書で印象に残っている文言があります。正確な表現は忘れましたが、「市場に生き残る企業は強い企業ではない。変化に対応できる企業だ」というものでした。企業が市場に生き残るためには、市場の変化に対応することが重要です。
そして、市場の変化とは、商品・サービスの変化、顧客ニーズの変化といえます。言い換えますと、製品ライフサイクルに合わせて、それぞれの段階に位置する顧客ニーズに合わせて、自社の商品・サービスを提供することが重要といえます。
製品ライフサイクルと顧客の特徴
製品ライフサイクルの4つの段階は以下のように考えられます。
導入期
導入期とは、新しい商品・サービスが導入された段階で、新しいモノ好きな顧客が購入します。顧客全体の2.5%から16%がこの段階の顧客となります。
成長期
成長期とは、新しい商品・サービスが急速に受け入れられる段階で、オピニオンリーダーとなる方の一部と新しい商品・サービスの購入に比較的慎重な方が顧客となります。顧客全体の13.5%から47.5%がこの段階での顧客となります。
成熟期
成熟期とは、新しい商品・サービスが日用品として受け入れられる段階で、周囲の大多数の人が使用しているのを見て購入される方が顧客となります。顧客全体の34%がこの段階の顧客となります。
衰退期
衰退期とは、新しい商品・サービスが衰退し、他の代替品にとって変わられる段階で、最も保守的な人が顧客となります。顧客全体の16%がこの段階の顧客となります
スマホの製品ライフサイクル
どのような商品・サービスにも寿命があります。その商品・サービスの寿命は、製品ライフサイクルといわれ、導入期、成長期、成熟期、衰退期の4つの段階を辿ると言われています。
そして、その4つの段階において、顧客が占める割合は下記の通りだと言われています。
- 導入期 5%~16%・・・新しいモノ好きの顧客
- 成長期 5%~47.5%・・世論を先導する顧客と追随する顧客
- 成熟期 34%・・・・・・周囲の大多数に同調する顧客
- 衰退期 16%・・・・・・・最も保守的な顧客
そこで、スマホを製品ライフサイクルで見ると、どうでしょうか。
総務省による「平成27年度版 情報通信白書」によりますと、スマホの普及率は次のようになります。
- 平成22年7%
- 平成23年3%
- 平成24年5%
- 平成25年6%
- 平成26年2%
となっています。
製品ライフサイクルでいえば、
- 平成22年 導入期
- 平成23年 成長期
- 平成24年 成長期~成熟期
- 平成25年 成熟期
- 平成26年 成熟期
といえそうです。
そして、スマホの普及により、若者のTV離れが進み、TV局はネットによる動画配信サービスを主要な事業の一つとして取り組んでいます。
AbemaTVのビジネスモデル
平成26年5月9日、5月13日の日経MJ新聞によりますと、「TV・ネット共闘の時代」として、テレビ局が様々な形で動画配信に参入されているとの事です。その中でも、テレビ朝日とサイバーエージェントが組んだ、視聴無料の「テレビ型モデル」であるAbemaTVの特集が組まれています。
サイバーエージェントの藤田普社長とテレビ朝日の早川洋会長のインタビュー記事ですが、この記事から、私見ですが、AbemaTVは、製品ライフサイクルに合わせたコンテンツを提供しているようです。
導入期から成長期の顧客
導入期から成長期においては、顧客は新しいモノ好きな方や、世論を先導するようなオピニオンリーダーとなる方で占められ、スマホの使い方も能動的な使い方をしていたといえます。
例えば、有料で音楽や動画を購入し、コンテンツを提供する側もオンデマンド型といえる顧客の要求に応じたコンテンツを提供していたといえます。
成熟期の顧客-AbemaTVのターゲット顧客
しかし、成熟期になりますと、スマホの使い方は、スマホ中毒と言われるような方が惰性で見るような形となってきます。そして、AbemaTVはこれらの顧客をターゲットとして、事業を展開しています。
顧客とコンテンツサービスとの相性
スマホ中毒と言われるような方が惰性でスマホを使う場合、AbemaTVが提供する24時間20以上のアニメやニュースなどの動画は、受け身で見ることができ、顧客との相性がいいといえそうです。
顧客と価格との相性
また、顧客自身が積極的に視聴した番組を探しにいくのではないため、無料で見られるという価格設定も、顧客との相性がいいといえそうです。
顧客と販路との相性
さらに、AbemaTVの操作性は秀逸で、視聴者がストレスなく動画を視聴することができるとのことです。受け身で番組を楽しみたい顧客にとっては、視聴番組を提供するシステム(販路)との相性も良さそうです。
AbemaTVの広告モデルと顧客との相性
ただ、AbemaTVは広告モデルを採用して、収益を得るビジネスモデルです。広告モデルとは、地上波放送と同じで、TV局がTVCMなどを放映する広告主から広告料をいただき、視聴者に無料で番組を提供するモデルです。
その広告モデルがビジネスとして成り立つためには、多くの視聴者が必要とされます。そして、AbemaTVがターゲットとする成熟期においては、顧客の数も多く、広告モデルが維持できるマスの顧客が獲得できる可能性がありそうです。
藤田普社長は、1日当りの延べ視聴者数が1,000万人になればマスメディア、と定義していますが、4月11日に開局したAbemaTVは1周間で1日の延べ視聴数が1,000万を超えたそうです。
AbemaTVは、成熟期における顧客の使い方、惰性で受け身の使い方に対して、無料となる広告モデルで番組を提供し、顧客ニーズに応えているといえそうです。
AbemaTVの競争相手
そうしますと、AbemaTVの競争相手は、同業他社であるテレビ局が配信する動画といえるかどうかは微妙です。日本テレビなどのオンデマンド型動画配信企業が競争相手ではなく、
受け身でかつ無料で楽しめるコンテンツ、が競争相手となりそうです。顧客の隙間時間を、受け身でかつ無料で楽しめるコンテンツと競争しているといえそうです。