キャッシュ・フロー計算書の収益性・安全性分析
キャッシュ・フロー計算書では実数分析と比率分析との2つの分析ができます。実数分析とは、キャッシュ・フロー計算書で現金がどういう原因でどれだけ増減したかを分析するものです。比率分析とは、様々な財務諸表の数値を使って比率を求め、企業の経営状況などを分析するものです。
キャッシュ・フロー計算書を使ってする比率分析には、収益性分析と安全性分析とがあります。これらは、損益計算書や貸借対照表を使って行う収益性分析や安全性分析と類似したものです。この分析ができるのは、
- キャッシュ・フロー計算書の営業キャッシュ・フロー(営業活動で稼いだ現金)≒損益計算書の営業利益(営業活動で稼いだ利益)
- キャッシュ・フロー計算書の営業キャッシュ・フロー(営業活動で稼いだ現金)≒貸借対照表の現金預金(財産として所有している現金預金)
という類似関係が成り立つからです。
収益性分析
収益性分析とは、企業の収益力を分析することをいいます。ここでいう収益力とは、企業が営業活動でどれだけの現金を稼ぐか、その現金を稼ぐ力をいいます。
収益性分析は、次の3つの段階を経て分析していきます。
- 第1段階:全体的な現金を稼ぐ力を把握(総資本営業キャッシュフロー比率)
- 第2段階:キャッシュ幅と財産の活用度を把握(キャッシュフローマージン、総資本回転率)
- 第3段階:キャッシュ幅と財産の活用度をさらに項目別に把握
現金を稼ぐ力(総資本営業キャッシュフロー比率)
企業の収益力、現金を稼ぐ力を表す会計上の指標の1つに、総資本営業キャッシュフロー比率があります。総資本営業キャッシュフロー比率は収益性分析の総合指標のひとつです。収益性分析とは、ここでは、現金を稼ぐ力を分析するものです。
総資本営業キャッシュフロー比率は、次の算式で求められます。
- 営業キャッシュフロー÷財産(総資本)
これは、どれだけの財産規模で、どれだけの営業キャッシュフローを生み出しているかを計算する指標となります。当然に、企業の財産規模が大きいほど営業キャッシュフローは大きくなるべきですし、企業の財産規模が小さければ営業キャッシュフローも小さくなります。
この指標が総合指標である理由は、会社の規模に関係なく現金を稼ぐ力を判断できるからです。
例えば、AとBの企業があり、両方とも売上高と営業キャッシュフローは同じだとします。売上高1千万円、営業キャッシュフロー100万円です。単純に考えれば、両方とも売上高に対する営業キャッシュフローは100万円÷1千万円=10%となり、現金を稼ぐ力は同じだと思えます。
しかし、Aの財産規模が1千万円で、Bの財産規模が1億円だとしたならば、Aは所有している財産1千万円で100万円の営業キャッシュフローを生み出し、Bは所有している財産1億円でAと同じ100万円の営業キャッシュフロー生み出したことになります。総資本営業キャッシュフロー比率でいえば、Aは100万円(営業キャッシュフロー)÷1千万円(財産)=10%となり、Bは100万円(営業キャッシュフロー)÷1億円(財産)=1%となります。つまり、財産規模の小さいAの方が現金を稼ぐ力は高いとなります。
企業は所有している財産(資本)を活用して営業活動で現金を稼いでいくのですから、総資本で営業キャッシュフローを見ていく方が本来の収益性を把握できることになるのです。
現金を稼ぐ力の構造(総資本営業キャッシュフロー比率の展開)
総資本営業キャッシュフロー比率はその算式を展開していくことにより、儲けの原因が「キャッシュ幅」(造語です)にあるか「回転」にあるかがわかります。言い換えますと、営業活動の現金獲得率の高さで稼いでいるのか、財産を活用する速さで稼いでいるのかがわかります。
総資本営業キャッシュフロー比率では収益性の状況が把握できます。ただし、この段階では収益性が高いか低いかということしかわかっていません。そこで、この総資本営業キャッシュフロー比率を分解して、儲けの原因がキャッシュ幅(現金獲得率の高さ)にあるか回転(財産を活用する速さ)にあるかをみていきます。
具体的には、総資本営業キャッシュフロー比率である算式は、次のように展開できます。
- 営業キャッシュフロー÷総資本=キャッシュ幅(営業キャッシュフロー÷売上または営業収入)✕回転(売上または営業収入÷総資本)
キャッシュ幅(売上高または営業収入に占める営業活動で稼いだ現金)
キャッシュ幅とは、売上高または営業収入に対する営業キャッシュフローをいいます。つまり売上高または営業収入で、どれくらい儲けとして現金が稼げているかということです。それは次のように計算できます。
- 営業キャッシュフロー÷売上高または営業収入×100%
キャッシュ・フロー計算書を直接法で作っている場合は、売上高に代えて営業収入を使います。
売上とは、相手に商品などを提供し、その対価(現金や売上債権)を得るという取引が実現したものをいいます。そのため、必ずしも、現金収入がなくても、つまり相手に対する債権が得た場合でも、売上として計算します。
営業収入とは、現金収入があった売上をいいます。売上と違い、商品などを提供し、かつ債権を得ても営業収入にはなりません。しかし、後日、債権を現金で回収した時に営業収入となります。つまり、営業収入とは、現金収入があった時点で計算する売上といえます。
キャッシュ幅を見る場合には、営業収入からどれだけ営業活動で稼いだ現金があるかをみるこちらの計算方法の方が、売上高で計算するよりも、より適切だといえます。売上高と違い、営業収入と営業キャッシュフローは現金ベースで計算される項目だからです。いずれも、現金という同じ物差しで比較できるからです。
回転率(財産を活用する速さ)
回転率とは売上高または営業収入に対する「回転」をいい、つまり財産(資本)を活用して、どれだけ売上または営業収入を稼ぎ出しているのか、その財産を活用する速さ(財産の回転)をいいます。それは、次の算式で計算されます。
- 売上高または営業収入÷総資本
先ほどのA社の例でいえば、「キャッシュ幅」はキャッシュフローマージンは10%であり、回転は1回転となります。企業が所有する財産1千万円を活用して、売上高1千万円を稼ぐことで、企業が所有する財産の1千万円分を1回回収したということです。
この回転が2回、3回と多くなるほど、財産を効率よく活用して売上または営業収入を稼いでいる、ということになります。
キャッシュ幅の構造(キャッシュフローマージンの展開)
「キャッシュ幅」であるキャッシュフローマージンはさらに、売上高総利益率、キャッシュフローマージンと展開し、そのキャッシュ幅の原因を明らかにすることができます。キャッシュフローマージンに問題があるとしても、キャッシュ幅には、売上総利益、営業キャッシュフローといくつかの段階があります。そこで、それぞれの段階でのキャッシュ幅を把握して、どの段階でキャッシュを多く出し、どの段階でキャッシュを減らしているのかその問題を特定していくのです。
売上高総利益率、キャッシュフローマージンを計算し、同業他社や自社の過去の比率と比較することにより、キャッシュ幅の問題点や改善点などがどこにあるかが把握できることになります。
売上高総利益率
売上高総利益とは、商品の仕入と販売に係る大元となる利益です。「売上高-売上原価」で計算されます。商品販売でいえば、「売上高-仕入高」と考えていただければイメージが湧くと思います。この利益は商品力による儲けといえます。
売上高総利益率は、次の算式でで計算されます。
- 売上総利益÷売上高
なお、キャッシュ・フロー計算書を直接法でつくっている場合には、売上総利益または営業収入総キャッシュ(造語です)と営業収入で計算します。
営業収入総キャッシュとは、売上高総利益のキャッシュフロー版です。具体的には、次の算式で計算できます。
- 営業収入総キャッシュ=営業収入-原材料または商品の仕入支出
営業収入総キャッシュを使用して、営業収入総キャッシュ率を計算します。営業収入総キャッシュ率は、売上高総利益率のキャッシュフロー版です。具体的には、次の算式で計算できます。
- 営業収入総キャッシュ÷営業収入
売上高営業利益率
営業利益とは、本業での利益です。「売上総利益-販売費および一般管理費」で計算されます。売上総利益から、販売に係る人件費、地代家賃、広告宣伝費などを差し引いて求められます。この利益は営業力による儲けといえます。
売上高営業利益率は次の算式で計算されます。
- 営業利益÷売上高
なお、キャッシュ・フロー計算書を直接法でつくっている場合には、キャッシュフローマージンで計算します。キャッシュフローマージンとは、売上高営業利益のキャッシュフロー版です。具体的には、次の算式で計算できます。
- 営業キャッシュフロー÷営業収入
財産を活用する速さの構造(総資本回転率の展開)
総資本回転率もさらに、売上債権回転率、棚卸資産回転率、固定資産回転率などと展開し、企業が使用した財産が、売上で回収されるその速さの原因を明らかにすることができます。
売上債権回転率、棚卸資産回転率、固定資産回転率を計算し、同業他社や自社の過去の比率と比較することにより、資産効率の問題点や改善点などがどこにあるかが把握できることになります。
売上債権回転率
売上債権回転率とは、売上債権がどれだけ効率的に回収されているかを示します。この回転率が高いほど、売上債権の現金回収が早いこととなります。
売上債権回転率は、次の算式で計算されます。
- 売上高または営業収入÷売上債権
棚卸資産回転率
棚卸資産回転率とは、在庫の入庫から販売までの期間が効率的かどうかを示します。この回転率が高いほど、商品が早く販売されていることとなります。
棚卸資産回転率は、次の算式で計算されます。
- 売上高または営業収入÷棚卸資産
固定資産回転率
固定資産回転率とは、固定資産がどれだけ効率的に運用されているかを示します。この回転率が高いほど、固定資産が効率的に利用されていることとなります。逆に、過剰設備、遊休設備などがあれば、この回転率は低くなります。
固定資産回転率は、次の算式で計算されます。
- 売上高または営業収入÷固定資産
安全性分析
安全性分析とは、企業の支払い能力を分析することをいいます。言い換えますと、資金繰りの状態を分析することです。ここでいう安全性とは、企業が営業活動で稼いだ現金について、どれだけの支払い能力があるかをいいます。支払い能力の高さは、短期的な返済が必要となる流動負債、銀行からの借入金、設備投資などの投資資金などと比較して計算します。
安全性分析として、次のようなものがあります。
- 流動負債営業キャッシュフロー比率
- 有利子負債営業キャッシュフロー比率
- 投資キャッシュフロー対営業キャッシュフロー
- インタレスト・カバレッジ・レシオ(金融費用負担能力)
流動負債営業キャッシュフロー比率
流動負債営業キャッシュフロー比率とは、短期に返済すべき買掛金や短期借入金などに対して、営業活動で稼いだ現金の占める比率をいいます。
流動負債営業キャッシュフロー比率は次の算式で計算します。
- 営業キャッシュフロー÷流動負債×100%=○○%
この比率は40%以上であれば良好とされます。
有利子負債営業キャッシュフロー比率
有利子負債営業キャッシュフロー比率とは、銀行に返済すべき借入金に対して、営業活動で稼いだ現金の占める比率をいいます。
有利子負債営業キャッシュフロー比率は次の算式で計算します。
- 営業キャッシュフロー÷有利子負債×100%=○○%
この比率の適正値は、借入金の返済期限に応じて計算します。例えば、5年で返済ということであれば、1年÷5年=20%となります。つまり、営業キャッシュフロー有利子負債比率が20%以上であれば、営業キャッシュフローの5年間分で借入金は返済できる、ということになります。
設備投資対営業キャッシュフロー
設備投資対営業キャッシュフロー比率とは、営業活動で稼いだ現金に対して、設備投資に使用した資金の占める比率をいいます。
設備投資対営業キャッシュフロー比率は次の算式で計算します。
- 設備投資÷営業キャッシュフロー×100%=○○%
この比率の適正値は、投資資産の回収期間に応じて計算します。例えば、投資資産の回収期間が5年であるならば、5年間のキャッシュフロー計算書を合計して計算します。つまり、5年間の設備投資資金の累計に対して、5年間の営業キャッシュフローの累計が100%以内であれば、投資資金を営業活動で稼いだ現金で回収したことになります。
インタレスト・カバレッジ・レシオ(金融費用負担能力)
インタレスト・カバレッジ・レシオとは、支払利息などの金融費用に対する営業キャッシュフロー比率をいいます。
インタレスト・カバレッジ・レシオ次の算式で計算します。
- (営業キャッシュフロー+税金+支払利息)÷支払利息=○○倍
つまり、支払利息に対して、営業活動で稼いだ現金がどれだけの比率を占めているのかをいい、この比率は2倍以上であることが望ましいとされています。
- 注1)ここでは「営業キャッシュフロー」と表示していますが、正確には「営業キャッシュフローの小計」となります。表示が煩瑣となりますので、すべて、「営業キャッシュフロー」と表示しています。
- 注2)ここでは「営業収入」と表示していますが、正確には「営業キャッシュフロー入金総額(営業収入+受取利息等)」となります。表示が煩雑となりますので、すべて「営業収入」と表示しています。
この文章は財務・会計に詳しくない方を対象に書いていますので、できるだけ分かりやすくすることを意図しています。 そのため、専門用語はできるだけ避け、また、内容も簡略化しています。 この文章で記載されている規定を適用する場合には、必ず税理士など専門家にご相談ください。 弊所でも相談対応させていただきます。 この文章は無断転載を禁止させていただいております。 |
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