事業戦略会計による3つのアプローチ

事業戦略会計とは、会社の事業を、事業戦略、事業戦術、利益モデルの3つで把握していくことです。事業戦略、事業戦術、利益モデルは、会社の事業をそれぞれ3つの視点から見たものです。同じものを、それぞれ違う角度で見たものといえます。事業戦略は会社の事業を儲ける仕組みという理論から見たものであり、事業戦術は会社の事業を活動という具体的な行動でみたものです。利益モデルのうち、ここで説明する会計は会社の事業を貨幣価値で評価してみたものです。

事業戦略とは

事業戦略とは、顧客に自社を選んでいただくための方法を考えることです。顧客のニーズに応える、競合ではなく自社を選んでいただくようにする、ということです。つまり、顧客に自社を選んでいただく=自社が儲かる、ということです。そこから、事業戦略は、儲かるための仕組みを考えること、となります。

事業戦略は、佐藤義典氏が提唱している戦略BASICSで考えることができます。詳細は、氏の多数の著作やDVD教材を参考いただくとしまして、ここでは、簡単に解説(私的解釈)します。

戦略BASICSでは、戦略は5つの要素を考えれば、必要なことはすべて考えられるとしています。その5つの要素とは、次の通りです。

  • 顧客   :課題をもち、その課題を解決したい人
  • 戦場・競合:顧客の課題を解決するものとして、顧客が考える選択肢の集合
  • 強み   :顧客が競合ではなく自社を選ぶ理由
  • 独自資源 :強みを競合がマネできない理由
  • メッセージ:顧客が競合ではなく自社を選ぶ理由となる情報

顧客が商品やサービスを買っていただけるから、商品やサービスが売れます。そして、顧客が商品やサービスを買うのは、その商品やサービスを使って、何らかのニーズを満たしたいから、課題を解決したいからです。

顧客が商品やサービスを買うときには、複数の選択肢から買いたい商品やサービスを選びます。その顧客が考えた選択肢が、自社の競合となります。自社の戦場、自社の競合を決めるのは、顧客なのです。

顧客は複数の選択肢から、通常は一つの商品やサービスを選びます。その商品やサービスを選ぶ理由を、強みといいます。顧客が選ぶから、強みといえるのです。

顧客に自社の商品やサービスを選んでいただいても、競合がマネしてきたならば、次は競合の商品やサービスが選ばれるかもしれません。強みに違いがないのであれば、価格競争になります。そのため、長期にわたり自社を選んでいただくためには、自社の強みを競合がマネできないことが重要となります。競合マネできない強みを可能とする能力が、独自資源となります。

顧客に選ばれるだけの強みがあっても、顧客が知らなければ選ばれません。顧客の選択肢に入らなければ、選ばれることはありません。顧客に選ばれるためには、顧客に自社の商品やサービスの存在を知っていただき、その強みを知っていただくことが必要となります。それを顧客に伝えるのが、メッセージとなります。

事業戦術とは

事業戦略とは、顧客に競合ではなく自社を選んでいただくための理論であり、設計図です。それは、目に見えない考え方です。

対して、事業戦術とは、具体的な行動であり、目に見える事業活動の集積です。日々の業務などです。チラシづくりやクーポンの発行、店舗の内容、商品の陳列や店員の接客、価格表示する値札の貼り付けやカード払いの業務、商品の企画から製造など、さまざまな事業活動をいいます。

事業活動は、大きく、顧客が体験する事業活動と、顧客が体験しない事業活動とに分けることができます。顧客が体験する事業活動とは、顧客が体験するCMやチラシ、店舗の内装や店員の対応、支払方法の利便性や値札による価格表示、商品のデザインや使いごこちなどです。顧客が体験しない事業活動とは、顧客の目に触れることがないバックヤードの業務などです。例えば、チラシやPOPの企画や発注業務、店舗の内装や店員の教育、カード払いの機械導入や操作手順の研修、供給先との価格交渉や商品の開発会議、などです。

事業活動を、この2つに分けるのは、顧客が体験する事業活動が、商品やサービスを買っていただけるかどうかに重要だからです。顧客は、CMや口コミなどで体験しなければ、自社のことを知ることはありません。当然に、顧客の選択肢に入りません。また、選択肢に入ったとしても、店員の説明やPOPなどで自社の強みを知らなければ、競合ではなく自社を選んでいただくことはありません。顧客が接点をもつ自社の事業活動が、自社の商品やサービスを買っていただけるかどうかを決めるのです。

顧客が体験しない事業活動は、顧客が自社の商品やサービスを買う体験を実現させるために重要となります。例えば、店員の親しみのある接客が自社の商品やサービスを選んでいただくのに重要なのであれば、親しみのある接客ができる人材を採用し、教育し、働きやすく評価される職場環境をつくることが必要となります。価格の低さが自社の商品やサービスを選んでいただくのに重要なのであれば、低コストで商品やサービスを提供する仕組みづくり、例えば大量仕入れによる低価格仕入が重要となるかもしれません。

会計情報

会社が儲かっているかどうかは、会計情報で判断できます。損益計算書や貸借対照表、キャッシュフロー計算書などです。損益計算書は一定期間の儲けを計算したもので、直接的に、いくら儲けたかがわかります。貸借対照表は財産状態を計算したものであり、過去からの累積でいくら儲かったかがわかります。キャッシュフロー計算書は一定期間のカネの増減を計算したもので、どれだけお金を稼いだかがわかります。

会計は事業活動を貨幣で評価され具体化されます。損益計算書は、自社の事業活動を貨幣で評価します。顧客からいただいた商品やサービスの代金は売上となります。自社の事業活動で消費した金銭はコストとして集計します。そして、売上とコストとの差額が利益、儲けとなります。損益計算書は、事業活動の結果を貨幣で評価し、儲けを計算したものといえます。

貸借対照表は、自社が所有している経営資源のうち、貨幣で評価できるとされているものが、財産として計算されます。具体的には、現金預金や有価証券、土地や建物、知的財産権などです。逆に、事業にとって重要な経営資源だとしても、スキルや組織体制、外部との関係、文化や理念などは貨幣で評価されないため、会計上は財産とされません。

戦略・戦術・会計

会社の事業にとって重要なのは、戦略、戦術、会計の3つが一貫性もって実現されることです。儲ける仕組みを考えたならば、それを実行し、実際に儲けることです。儲ける仕組みを考えても、それが実行できないのであれば、机上の理論に終わります。事業活動を行っていても、儲ける仕組みができていないのであれば、ムダな活動になります。また、儲ける仕組みを考え、それを実行しても、実際に儲からないのであれば、それは戦略、戦術のいずれかに問題があることになります。

事業戦略は理論であり、設計図です。その事業戦略は事業活動として具体化され、実行されます。事業戦略である戦場・競合は、売り物、売り値、売り場、売り方で競合される選択肢として具体化されます。メッセージは、顧客体験で伝わる情報として具体化されます。強みは、顧客体験で伝わる「競合ではなく自社を選ぶ理由」として具体化されます。また、強み、独自資源は、目に見えない事業活動として、具体化されます。売り物や売り値などの4Pを作り上げる業務として具体化されます。また、独自資源も、ハード資源やソフト資源として具体化されます。

会計情報は、事業活動により具体化されることは、前述したとおりです。

以上から、戦略を事業活動として具体化して、事業活動を会計情報として具体化することで、その戦略が儲かる仕組みになっているかどうかがわかります。もし、儲からないのであれば、戦略の見直しが必要かもしれません。自社が提供している価値に対して顧客の評価(対価)が低い、自社ではなく競合が選ばれているなど、の問題を検討します。

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