コーペティション経営―ゲーム論がビジネスを変える―

書名 コーペティション経営―ゲーム論がビジネスを変える―

著者 B・J・ネイルバフ、A・M・ブランデンバーガー

出版社 日本経済新聞社

出版年1997年2月25日 1版1刷

目次

1: はじめに

2: 要約

3: 構成

はじめに

本書はビジネスを1つのゲームとして見て、ゲーム理論で最適な経営戦略を見つけ、ビジネスで成功する方法について解説しています。

経営の戦略的環境および経営戦略について、ゲーム理論で体系的に考えています。ゲーム理論で経営を語るとした書籍の多くは、断片的なゲーム理論の活用となっている印象を否めませんが、本書ではそのような不満はありません。

また、ゲーム理論を活用した事例分析は、常識を覆すような考えかたを与えてくれます。

ゲーム理論で体系的に勝つための経営を考えていきたい方には、ぜひともお勧めしたいビジネス書の1冊です。

ただ、非常に残念なことは、本書は既に絶版となっています。そのため、本書を読むためには、図書館で借りるか、中古本を買うしかありません。

要約

なぜゲーム理論なのか

ビジネスは将棋のようなゲームといえます。そのため、ゲーム理論が経営に応用できます。

将棋の指し手は自分が勝つために自分の最善と考える打ち手を考え、そしてその打ち手に対して相手の立場に立ち、相手が最善と考える打ち手を考えます。そしてそれに対する自分の打ち手と先読みをしていきます。

そしてそのような先読みの打ち手の組み合わせを複数パターン考えて、それら複数パターンの中から、最善の成果をもたらしてくれる打ち手を指していきます。

ビジネスもそのようなゲームと同様に、自社の戦略の成果を決めるのは、自社と他のゲーム参加者の戦略に依存してきます。そこで、ゲーム理論を応用し、最適な戦略を見つけていくことが重要となってくるのです。

なお、ビジネスというゲームは通常のゲームとは違い、勝者が1人とは限らず、ゲームのすべての要素は変化し続けていきます。

協調と競争のゲーム

本書では、経営とは常に競争だけがあるだけでなく、協調もあることを主張しています。

ビジネスというゲームに参加する各々のプレイヤーはパイを創りだすときは協調関係にあり、そのパイを分けるときには競争関係にあります。ゲームに参加する各々プレイヤーの間には、常に競争関係もあれば、協調関係もあるのです。本書の題名にあるコーペティションとは、「協調」と「競争」を組み合わせた造語となります。

重要なのは、ビジネスというゲームにおいては、ゲーム理論を活用して、「勝つか負けるかのケース」「双方が勝つケース」という成果の中で、最適な戦略を選択していくことにあります。

ゲームを変える5つの要素

自分がどれだけパイの分け前を得るかどうかは、自分の力と他のプレイヤーの力関係によります。そして、その力関係を決めるのが、ゲームの構造です。

ビジネスというゲームの構造は5つの構成要素から成り立っています。その5つとは、「プレイヤー」「付加価値」「ルール」「認識」「範囲」の5つです。

そして、ゲームを自社に有利に変えるためには、これらの5つの要素のいずれかを変えて、ゲームにおける各プレイヤーの力関係を変えていくこととなります。

構成

本書は全部で9つのパートに分かれています。

第1章

ビジネスは協調と競争とが同時に起こるものであり、競争がすべてでないことを解説しています。そして、協調と競争とを同時に見つける手法として、ゲーム理論が有効であるとしています。また、本書の構成について解説しています。

第2章

ゲームの構成要素の一つである「プレイヤー」について解説しています。プレイヤーはゲームにおける重要な力の源泉となります。

ビジネスというゲームに参加するプレイヤーには、顧客、自社、供給者、競争相手、そして補完的生産者とがいます。

補完的生産者とは、パソコンに対するソフトウェアのように、それを所有することで、自社の製品の価値が上がるものをいいます。パソコンだけではただの箱にすぎず、ソフトウェアだけでも何の役にもたちません。両者がそろって価値をもつのです。

ゲームに参加するプレイヤーはさまざまな役割を持っており、自社にとっての競争相手が時には補完的生産者に、時には顧客に、そして時には供給者になり得ます。当然、自社も自ら顧客、供給者などと役割を変えることもあり得ます。

そして、そのようなプレイヤー全体の相互関係を表している図として、価値相関図ついて解説しています。価値相関図とは、存在するすべてのプレイヤーおよびその関係を明らかにして、相互依存関係を視覚的に説明するものです。

第3章

ゲームの構成要素である、「付加価値」「ルール」「認識」「境界」について解説しています。また、合理的か非合理的かという判断ではなく、他者の視点からゲームを見ることの重要性についても解説しています。

付加価値

付加価値とは、自社がそのゲームに持ち込むことができる価値の量をいいます。付加価値はゲームにおける重要な力の源泉となります。

プレイヤーは自社が持ち込む以上のパイをとることはできません。そうすると、他のプレイヤーから自社はゲームから外されます。自社をゲームに参加させないほうが、他のプレイヤーはより大きなパイを受け取れるからです。

ルール

ルールとは、ゲームの行われ方を規定するものをいいます。ルールもゲームにおける重要な力の源泉となります。

ビジネスにおいて普遍的なルールはなく、それは、慣習、法律、契約などから生じます。

認識

認識とは、ゲームに参加しているプレイヤーの認識をいいます。認識もゲームにおける重要な力の源泉となります。

認識には、そのプレイヤー自身の考え、さらには、そのプレイヤーが他者の認識をどう考えているか、また、その他者が自分がどう考えていると考えるか、などを含みます。

境界

境界とは、ゲームの範囲をいいます。境界もゲームにおける重要な力の源泉となります。

世界には1つのゲームしかありません。しかし、すべてのゲームを描写することはできないため、便宜上、プレイヤーはゲームに境界を設けて考えているのです。将棋でいえば、「初盤」「中盤」「終盤」と分けて考えるようなものです。

第4章

自社が有利にビジネスを展開するため、ゲームを変える方法の一つとして、プレイヤーを変えることについて解説しています。

プレイヤーを変えるということは、自らゲームに参加するか否か、他のプレイヤーである顧客、供給者、補完的生産者、競争相手をどう増やすかどうかをいいます。

時には、競争相手を増やすことが、自社がゲームを有利に展開するために重要となります。

第5章

自社が有利にビジネスを展開するため、ゲームを変える方法の一つとして、付加価値を変えることについて解説しています。

付加価値を変えるということは、いかに他のプレイヤーの付加価値を制限し自社の取り分を増やすか、いかに付加価値を創るか、顧客や供給者との結びつきでいかに付加価値を深めるかをいいます。

時には、競争相手が自社の付加価値を模倣することで、自社と競争相手の双方が勝つ場合もあります。

第6章

自社が有利にビジネスを展開するため、ゲームを変える方法の一つとして、ルールを変えることについて解説しています。

本書では、ルールとして、顧客との契約、供給者との契約、大衆市場におけるルールおよび政府によるルールをあげています。

顧客や供給者との契約は、ゲーム理論でみれば常識的に考えられるような効果以外の効果をもたらします。また、大衆市場におけるルールにおいても同様です。

たとえば、買い手である顧客にとって有利な内容の契約が、逆説的に売り手である企業に強い交渉力を与える場合もあるのです。

時には、競争相手が自社のルール(契約など)を模倣することで、自社と競争相手の双方が勝つ場合もあります。

第7章

自社が有利にビジネスを展開するため、ゲームを変える方法の一つとして、戦術を変えることについて解説しています。

戦術とは、プレイヤーの認識を変える行動をいいます。

戦術には、信頼される情報提供によりプレイヤーの認識を明らかにする方法、情報を制限し自社にとって有利となるプレイヤーの認識を変えない方法、そして意図的に情報を操作しプレイヤーの認識をかく乱させる方法があります。

第8章

自社が有利にビジネスを展開するため、ゲームを変える方法の一つとして、範囲を変えることについて解説しています。

範囲を変えるということは、ゲームの現在の範囲を明らかにし、そのゲームを他のゲームとつなげるか、それとも他のゲームとのつながりを断つかをいいます。

ゲームは、共通のプレイヤーがいることを前提とし、付加価値、ルール、認識でつながっています。

そのため、ゲームの範囲を変えるということは、付加価値、ルール、認識のつながりを変えることを意味します。

第9章

最後の章においては、ゲームを変えるためのチェックリストがあげられています。チェックリストは、「プレイヤー」「付加価値」「ルール」「戦術」「範囲」に関してそれぞれあげられています。そしてこれらのチェックリストに応えることで、ゲームを変え、ゲームの変化に備えていくことができます。

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